モーションの値段
フリーランスの同業者との飲みで、よく出てくる話題。モーションの単価はいくらなのだろう。最後は人件費と制作量のバランスから算出するという結論になる。
しかし、これだと会社や個人のスキルに大きく左右されることになる。一概に「1モーション○○万円!」と言える結論には至っていない。
でもまあ、ひとつの指針として、簡単にではあるが計算してみようと思う。*1
今、私の所属するプロジェクトでは,1秒1体のキャラモーションをクオリティーチェックを通して、データフィックスまで制作するのに平均2日かかる。といってもアニメーターの個人差が大きく、出来る人で3秒を1日。まだまだこれからな人は5日で1秒ってところだ。もちろんクオリティーにも差はあるし、出来る人でもじっくり時間をかけて質を高める人もいるが、ここはめんどくさいので省略。
とすると。
年間人件費を一人あたり1000万円*2として、1年の勤務日数は 一月22日×12ヶ月=264日、実際はもっと多いので四捨五入で300日とする。一日の人件費=1000万円÷300日=3万3000円
- 1秒2日で計算すると、1秒=6万6000円
- 出来る人が一日3秒をコンスタントに作ると、1秒=1万1000円
- まだまだこれからな人だと、1秒=16万5000円だ。(3万3000円×5日で)
とんでもない価格差だ。この不安定さではモーションキャプチャーに依存する気持ちもわからなくはない。
別な例で計算してみる。TVシリーズのようなクオリティー無用のスピード重視だとどうだろう。年間人件費800万、年間勤務日数300日、生産量一日10秒とすると、
- 800万円÷300日÷10秒=2,600円で 1秒=2600円だ
安すぎだろう。さすがに引く。
次はハリウッド価格で計算してみよう。年間人件費2000万円 年間勤務日数300日 生産量2日で1秒。*3
- 2000万円÷300日×2で 1秒=13万3000円
もっと高いかもしれないし安いかもしれない。
と、かなり大雑把な計算ではあるが、結局1秒モーションの単価を割り出すことはかなりむずかしい。
スッキリしたい人のために私の個人的見解を経験と勘から述べさせてもらうと
- 1アクション=3万円〜10万円
- 1分モーション=100万円〜300万
といったところだろうか。もちろんこれらは、プロとしての質を有しているのが大前提で量産向きの価格ではない。モーションの質は落とそうと思えばいくらでも落とせるのだから。ここから値段が下がるようなら、質も下がると見て間違いない。*4
日本のように質に無関心な国では、「安かろう良かろう」という風潮が出てくるだろう。そうなれば、手付けCGアニメーターの存在意義はなくなる。モーションキャプチャーを使うか、他のセクションで手の空いているモデラーさんやデバッカーさんや企画さんに作らせればいい。なんならディレクター自ら作ればいい。そのほうがよっぽど低コストでモーションを作れる。
フリーランスのCGアニメーターや、組織に属するモーションデザイナーが副業として、単価で仕事を引き受ける場合は気をつけたい。
2Dアニメ初期のように、見当違いの価格で仕事を請け負うようなことのないよう、また不当な価格つりあげのないよう、自分の実力とCGアニメーションの将来をしっかりと考えて仕事を引き受けるか、断るか、もしくは交渉するか。決めてゆきたいものである。
価格と未来を決めるのは、クライアントではなく我々CGアニメーター自身なのだ。
「絵が描けなければ・・」という圧力
というのは、CG界隈では有名な話。
んなわけないが描けるにこしたことはない。これは、CGを志すものにとっては常識。
しかし、もやは常識となってしまったこの事実をあいもかわらず得意げに語っている人達ってのは後を絶たない。
あまりにも、使い古されたこの言葉に、正直うんざりしている人もいるのではないだろうか。もう、その言い分は十分わかったから。そろそろ別な視点でCGの可能性を探ってみないか?
CGアニメーションというのは、2Dアニメと違って、絵はコンピュータが出力してくれる。絵のうまさやデッサン力ってのは、モデリングのうまさだとか、人にイメージを伝えるものだとか空間を把握しよりよい演出が出来るということのサポートとして必要になってくる。
絶対的に必要なものではなく、あくまでサポートだ。
特に「キャラを動かす」ことについては、その必要度は低い。3DCGのキャラモーションは絵がうまくなくても、成り立つのだ。これは2Dキャラアニメとの決定的な違いであり、最大の強みだ。
このCGの長所はもっと注目されてもいいのではないだろうか。絵が描けずとも、素晴らしいアニメーション(モーション)を作っている人はたくさんいる。
私は多少なりとも絵が描けるが、私より断然評価されている二人のモーションデザイナーは絵がかけない。せいぜい棒人間くらいなものだ。
彼らは絵がかけない分、動かすことで自分を表現しようとしている。彼らの前で、「絵が描けなければ〜」なんてことは言えない。その人達の可能性を否定することになるし、何より、彼らより結果を残せていない自分が無様に見えるから。
それに、そもそもこの言葉自体、否定性が前面に押し出されていて好かない。*1 もし言うのなら「絵が描けるともっといいものが出来る」のほうが断然いい。
海外のCGアニメーターは絵がかけることが大前提だ。それはCGアニメーターを目指すものが有り余っている国だからこそできる贅沢な履歴書フィルターだ。そんなCGアニメーターの可能性を狭める大前提など、今の日本が真似する必要はない。
絵がうまくなければマンガは描けないか? 有名大学を出ていなければ、人を感動させることは出来ないのか? 絵がうまくないからを、いいわけにしてないか? 我々CGアニメーターの目的は、絵をうまく描くことか?
絵の質やデッサン力はあくまで手段だ。大事な事を見失ってはけない。静止画が目的ではない、動画が目的なのだ。絵がうまくかけないことで、モーションデザイナーとしての自信や誇りを失う必要はまったくない。
モーションデザイナーの目指すべきものは「絵>モーション」 ではない「モーション>絵」 だ!
「絵が描けなければいいモデリングは出来ない」という圧力は、認めても
「絵が描けなければいいモーションは出来ない」という圧力は、私は認めない。
*1:私が言うのもなんだが
高機能リグの罠とシンプルリグのすすめ
細部まで分業化された会社によっては、このリグをセットアップするのを専門とする「リガー」と呼ばれる人達がいるらしい。だがほとんどの場合、そのモデルを制作したモデラーか、モーションデザイナーがリギングする。
リギングの技術はモデラーとモーションデザイナーをつなぐ技術といえる。モデラーとモーションデザイナーがコンセサンスをとるほどより良いリグが出来るということだ。
よく出来たリグは、モーション制作に大きな恩恵をもたらす。それはフェイシャルや、指先の動き、制御のしやすさ等、細かなところまで行き届いた制御だけではなく、生産スピード、クオリティー、動きの発想にまで影響を及ぼす。
では、良しとされるリグとはどんなリグだろうか。
いろんな機能が盛り込まれた、気の利いた高機能なリグだろうか。それとも最低限5体満足に動かせられるだけの手抜きのようなリグだろうか
この認識の違いが、ひょっとしたら、我々日本の3DCGアニメーターに大きな影響をもたらしているのかもしれない。
私が思うに、どうも日本では高機能リグに注目が集まっていると感じる。いや、日本だけではなく、世界的に見てもそういえるかもしれない。具体的に例を出すと以下のようなリグが、「良し」とされているようだ。
- 制御出来るコントローラーが豊富で、細かな制御が可能。
- 体に埋まらないよう回転にリミッタがかかっている
- 足が地面に埋まらないような機能がついている(フロアコンタクト)
- IKとFKを切替られる
- モデルが捩れたときのための制御ヌルがある
- 指先にまで、IKが入っている
- フェイシャルに対応済み
- オートで肩が動く
つまり至れりつくせりってわけである。
いろんな会社を見てきたが、モデラーがリグを自由に入れられる環境がある場合彼らは、非常に高機能なプロご用達といった感じのリグを用意してくれる。
そう。高機能リグであるほど、モーションデザイナーが喜んでくれると思っているのだ。そして、事実モーションデザイナーは、それを喜ぶ。もしかしたら、更に細かな要望を要求するかもしれない。自分で、更に高機能なリグを提案するかもしれない。
もはや高機能リグが「良し」とされてるのは常識のようだ。
ここからが本題になる。
その常識はかなりやばい。
モデルのウエイトを調整するために、肩や関節の骨が増えてゆく。ってのは仕方ないしアニメーターとしてそれほど問題はない。
しかし今現在の日本において多くのCGアニメーターが(特に新人や卵)この無意味に高機能なリグに喜び、結果使いこなせずいいモーションにたどり着く前に、終了を迎えるているのだと思う。
「機能が多い=いいモーションがつけられる」ではない。むしろ逆「機能が多い=手間が増える」こう解釈したほう真実に近い。
アニメーションに限らずだが、何かの物事を解決しようとするとき、その解決に用いたパッチが、他の問題を引き起こすことがある。
失敗すれば芋づる方式で問題は増える。
通常であれば、それは技術向上のための必要悪とされる問題かもしれない。しかしアニメーションの場合は、そのデメリットが想像以上に大きいのだ。ファンクションカーブの数が2倍になれば、制作スピードも2倍以上になるしクオリティーにも影響が出る。修正も容易ではなくなるだろう。リミットやフロアコンタクトがあるということは、Fカーブが読めないなど多くの自由を失うことになる。選択するコントローラーが多いということは、選択の手間が増えるということだ。
何よりも、モーションデザイナー本来のスキルである「いい動き」を作る過程において大きな荷物になる。
高機能リグを使いこなせている?その前に、そのモーションはいい動きなのか?世界に誇れるモーションなのか?細かなところまで動いている=いいモーションだとでも思っているのか?
大事な事を見失ってはけない。最も優先するべきは何かを知っていれば、問題を問題としないという選択肢も出てくるはずだ。
高機能リグのメリットばかり見てきたモーションデザイナーてのは、ツールに酔っている人間。もしくは、「いい動き」を追求することから逃げた人間だ。
この高機能リグの罠に気付いているモーションデザイナーはどれほどいるだろうか?そして、モデラーはその事実に気付く機会はあるのだろうか。
例えば大量のモブのアニメーションをつけなければいけないのに、指先まで骨の入ったリグで作れと言われたら、とてつもなく迷惑である。
それを理解できるのは、モーションデザイナー自身しかいない。もし、リグを入れるモデラーや、リギング専門の人がいたら、モーションデザイナーは、モデラーやリガーにぜひその意見を伝えるべきだ。伝えなければ、この先も我々モーションデザイナーのスキルUPのスピードに加速は望めないのだから。
揺れものや指先まで動いているしょっぱいモーションと揺れものなし指アニメなしの、活き活きとしたモーション。観客が感動するのは、はたしてどちらか・・・。
もちろん、活き活きとしたモーションで、指先まで動いていれば最高なのだが。今の日本でそのステージに立てる人は、少ない。
補足
この理屈には「対象が限定」されることと「例外」が存在する。
「対象」・・・新人、及びいつまでたっても成長しないモーションデザイナー。(主に日本)
新人に関しては、まず基礎的なモーションを教える上で、余計な制御は蛇足になる。まだ早い。成長スピードに影響する。いつまでも成長しないデザイナーは、その基礎が出来る前に、高機能リグの魔力に取り付かれた成れの果てだ。
「例外」・・・行き詰った人、及び、出来るモーションデザイナー。そしてアップショットのように細かい制御が必要なシーンを作るとき。(主に世界)
例外は、基礎がしっかり出来ている人の次のステップと考える。また顔のアップ、フェイシャルのシーンでは高機能リグの存在が必要になる。(これに関しては、全体のモーションとは別に用意するべきだと思うが)
引っ越して来ました。
Yahoo!ブログから引越して来ました。
id:mocebといいます。
当ブログは、3DCGアニメーションにおけるキャラクターの動き「モーション」に関しての、技術、質、精神論などについて、好き勝手批評をするブログです。
「CGでキャラクターを動かす」、という仕事は非常に楽しく魅力的ではありますが、歴史が浅く、2Dアニメのように絶対的な理論が確立していません。
*1
また、非常にマイナーな職種のため、世間にも知られていませんし、ネット上にも有意義といえる情報は皆無に近いのが現状です。
数人のCGアニメーターが、ブログを開設し情報を提供しているようですが、まだまだ数がたりません。
数が少ないということは、考え方が一方通行化しかねない危険性をはらんでいるといえます。
特にCGアニメーターを目指す「若手や卵たち」にとっては、貴重な情報源のため、その情報が間違っていたとしても
真意に受け止められ、強く吸収されてしまう可能性があります。
私自身、この仕事に携わり10年以上の月日が立ちました。中堅以上といわれる世代です。いい加減、いつまでも教わる側であり、受身であり続けるわけにはいかないと日々感じ続けていました。
これからのCGアニメーション(モーション)の発展のために、私の考え方が
議論の発端となり、多くの意見が聞けることを、また、よりよい理論の確立に貢献できることを願って
本気で思ったことを好き勝手に書いていこうと思います。
また、当ブログは、「日本の中堅クラス」の3DCGアニメーター(モーションデザイナー)の視点からのものです。ものごとには順序がありますゆえ、ここで述べられる意見や批評が「日本の中堅クラス」には当てはまっても、「神クラス」「新人クラス」「海外クラス」には当てはまらないこともあることをご理解いただければと思います。
すべてのアニメーションの歴史とそれを培ってきた先輩たちに感謝と尊敬の意を込めて